第590週 写文俳句8月その1

夏雲を追いたる旅や影法師

h-0013

よいことが同時に多発したとき、

「盆と正月が一緒にきたようだ」

という。日本独特のいいまわしであるが、死者の魂が里帰りして来る盆の行事は、都会ではせいぜい盆踊りに残っている程度である。むしろ、今日の盆は、祖霊を迎える行事ではなく、ほとんど夏休みと同義語になっている。

日本全国、ほとんどの会社が盆に合わせて夏休みをとる。年末年始の休暇、ゴールデンウィークと併せて、盆と重なった夏休みに日本民族大移動がおこなわれる。都会は空っぽになり、交通機関は定員三倍、地方へ向かう幹線道路は大渋滞となる。

それでも夏休みには野越え山越え、郷里や海、山、リゾート地に出かけて行く。なにを好き好んで、最も暑い夏の日と混雑する時期を選んで遠方まで行く必要があるのか。

年末年始とゴールデンウィークの旅行は、家族がらみ、帰省が多いが、夏休みは自分本位、あるいはサークルの団体、家族グループであるとしても、レクリエーション的色彩が濃い。

元来、夏休みは戦後、西欧のバカンスの輸入であり、それ以前は日本では学校以外には国民的なまとまった休暇としては認められていなかった。猫も杓子も「夏休み」が取れるようになったのは、西欧文化の影響と国民生活の向上を踏まえている。

本来は祖霊の一年ぶりのお帰りを迎える行事が、西欧風のバカンスによってすげ替えられてしまった。仕事の性格や、会社の都合によって、盆の時期に夏休みを取れない者も、盆を外して休む。

他の季節のまとまった休暇に比べて、夏休みは特に解放感が濃い。もともと日本という湿度の高い暑熱に備えて、家屋や、制度や、慣習や、ライフスタイルが冬よりは夏向きにできている。つまり、夏休みは日本人のライフスタイルに最も合っている。

~続く~

初出:2010年8月梅家族(梅研究会)