第3週

隠れ宿恋も隠すや梅雨の音

(吉野にて)


吹きなびく薄なればの強さかな


歳月を浮かべる酒や霧の音


集いたる歌の終われば霧流る


五月雨に別れ切なや隠れ宿

(吉野御旅所)


別れ花散り敷きたるに出会いたり


花あれば花の時雨に出会いをり


魂の香煙燻(くゆ)る五月晴れ


行きずりのシャッターごとの京の暮


君去りて温もりのある席を取り


秋の日を避けて喫する抹茶かな


酔い乱れ花おぼろなる面影や


咲き競う花それぞれの行方あり


灯火(ともしび)のこぼれたる宿霧晴れて


星の陣探れる奥に恋の消え

(新宿にて)


友去りて去りたる後の梅雨の音


花びらのうなじを滑り風絶えて


花びらのうなじを滑り言葉尽く


言絶えて花びらうなじを滑りけり


風薫る彼方に君のうなじあり

(熱海MOA美術館)