第601週 写文俳句10月その3

短夜や心を測る月の位置

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私の旅行は山に登ったついでにまわるのであるから、野宿はお手のものであった。学生ということで、行く先々の人からずいぶんお世話になった。そういう旅行はもうしたくてもできない。世の中の構造が変わってしまったし、体力がついていけない。

若く、それも学生時代は、人生の重荷もなく、自分のことしか考えない無責任で身軽な時代であったが、人生の方向づけがなされず、果たして自分に社会での生活能力があるのかないのか、お先真っ暗な不安で押しつぶされそうであった。いまにしておもえば、まだ人生の重さを知らない不安の重さであったが、それがまた青春の特権でもあった。

つまり、行き先は不明であるが、どの列車にも乗れる乗車券を持っている。行き先が永久凍土か荒野かもしれないが、親がレールを敷いてくれた行き先がわかっている安全お勧めコースよりも断然面白い。自分の意志で乗る列車には、無限の未知数と可能性がつまっている。そんな列車に乗ってある程度の時間と距離を旅行してしまうと、先がだんだん見えてくるが、いまさら後戻りや行き先変更は難しくなっている。青春とは未知数の多いことである。

初出:2009年10月梅家族(梅研究会)