第612週 写文俳句1月その1

初日の出去年(こぞ)の未練を切り離し

カウントダウンと共に旧い年は行き、新しい年が始まる。除夜の鐘を撞いた興奮を引いて、参詣客は初詣へと足を延ばす。年の暮れ、追いつめられて首がまわらなくなった人も、新たな年明けと共になんとかなりそうな気がして、ほっとする。年の切れ目の錯覚であるが、テレビは「紅白歌合戦」から「ゆく年くる年」に切り換えて、各地の初詣風景を放映する。平素はあまり近寄らない名刹や、古社寺に晴れ着をまとい、神妙な顔をして初詣をする。神仏にほとんど縁のない人間も、正月にはなんとなく神社や寺の方角に足が向いてしまう。

初詣の後は初日の出を拝みに行く。この順序を逆にする人も多い。晴れてさえいれば毎朝拝める日の出を、この日に限って寒い風に吹かれながら、海岸や高い建物、高山の頂上などに登って拝む。初日が水平線や雲海を突き破って覗くと、参拝者の間にどよめきが起きる。万歳をする人もいる。携帯やカメラが放列を敷く。

私も初詣に行くが、××神宮や、○○大社のような著名な社寺には行かない。近所の小さな竹藪の中に発見した、置き忘れられたような無住の社に参詣する。初詣客はほとんどない。凍った星の光に森閑と包まれてうずくまっている小さな社を独占して初詣すると、御利益も独り占めにするような気がする。まことに欲張った発想で、動機が卑しい。

初出:2008年1月梅家族(梅研究会)