第614週 写文俳句1月その3

人生七転び八起き、悪いこともあればいいこともあるという期待可能性があるので生きていける。悪いことずくめの人生があらかじめ予見できるようであれば、人は希望を失い、無気力になるであろう。心機一転、カウンターゼロにしてやり直す区切り点として、年の初めは絶好である。たとえ三日坊主であっても、せめて三日間でも生活を改めようと神仏に誓う。初詣は神仏に御利益を願うだけではなく、新たな生き方を誓う儀式でもある。

四方に散っていた家族が久しぶりに集い、家族のいない者は友人同士で群れ、家族も友人もいない者は街を歩く。死ぬために人々が集まって来ているような街が、生きるために集まっているように見えるのも正月である。

年の初めにいつもおもいだす言葉がある。

「面白くない人生なんてない。そんなものはあり得ない。一見退屈そうでも、内にはドラマがあり、コメディがあり、そして悲劇がある」(マーク・トウェイン)

この言葉に接した当初は、マーク・トウェインのようなエリートであればこそ言える言葉であり、大多数の人間の人生はおおむね退屈なものだとおもっていた。だが、それは本人がそのようにおもい込んでいるだけであって、どんな人生でもただ一度限りの、繰り返しのきかない試みである。たとえ昨日と同じような今日、今日と同じような明日の繰り返しであっても、我々は一分一秒でも時間を遡行して繰り返すことはできない。

二十歳(はたち)まで指折り数えあと一つ時計の秒針思わず止めた(森村冬子)

初日の出 命を燃やす薪となれ
初詣昨日を拒む今朝があり

初出:2008年1月梅家族(梅研究会)