第615週 写文俳句1月その4

初日の出拝めぬ人の初入り日

生ある限り一期一会の時間を積み重ねての人生がある。その事実を多少おもい起こさせるのが年の初めである。だからこそ、人々は繰り返せない人生の刻み目として初詣をし、初日の出を拝む。たとえ願い通りの年が展開しなくとも、それはそれぞれの人にあたえられた人生であり、繰り返しのきかない貴重な試みなのである。

口唇をかみしめる度減ってゆくリップクリーム眺めており(森村冬子)

仕事の都合や家庭の事情で初日の出を拝めぬ人は、初入り日をかわりに拝む。初日の出は溌剌として博愛衆に及ぼすようであるが、初入り日は仕事や個人的事情で初日の出すら拝めなかった人々のために追試をするような優しさがある。私は初日の出よりは初入り日の方が好きである。学生時代、追試によって何度か救われた経験があったせいかもしれない。

初出:2008年1月梅家族(梅研究会)