第625週 写文俳句4月その2

散る花の行方を追わず風の声

桜道肩できった風に今
後押しされる我が背中なり(森村冬子)

センチメンタルな春愁にとらわれかけても、花の渦巻きに巻き込まれた者は、花の後を追ってしまう。

朝のラッシュアワー、殺風景な通勤電車も、この季節は一味ちがう。乗客を吐き出した後、電車の床に点々と桜の花弁が散っている。花の下を駅へ急いだ乗客の衣服について、床に落ちたのである。

艶やかな花の立ち姿に背を向けて会社に一目散に向かう通勤者の目に、それは一種の残酷な拷問であるかもしれない。

今日、帰路に就くまで、散らずにその艶姿を保てと胸に呼びかけながら運んだ花びらは、一年に一度の花見すらできない人への春の使者である。

振り向けば帰りたくなる思い出に
わざと背を向け私は歩く(森村冬子)

初出:2008年4月梅家族(梅研究会)