第649週 写文俳句9月その4

月を追う人幻のごとく見え

満月は月の全盛であるが、待宵(まつよい、陰暦八月〔以下同〕十四夜)、十六夜(いざよい)や、立待月(たちまちづき、十七夜月)、居待月(いまちづき、十八夜)、寝待月(ねまちづき、十九夜あるいは十三夜)、二日月、三日月、残月や弦月それぞれに風情がある。月それぞれの形に名前をつけ、月齢をあたえたのも人間である。

月毒も人間の毒に感染し、これが人間に逆感染したと考えれば、「我がものとおもえばいとし月の毒」である。月光が燦々(さんさん)と降る可惜夜、かぐや姫の伝説を追いながら、私は幻の面影を探している。

人にはだれにもただ一人の異性という存在があるそうである。それは配偶者や初恋の人とは限らない。またその人に出会っても、たがいに気がつかずにすれちがったり、あるいは出会えなかったり、さらにあるいは異なる時代に生まれたかもしれない。そんな異性に出会えるような美しい錯覚を持つのも、月毒のせいであろう。

初出:2009年9月梅家族(梅研究会)