第652週 写文俳句10月その2

名月の位置忘れたる恋三昧

こんな夜の飲み友達は有り難い。茶飲み友達は、月の盛んな夜には似合わない。降るような月光を肴にしながら共に飲む異性の飲み友達に恵まれた者は幸せである。

だが、飲み馴れた飲み友達はあまり月を見なくなる。酒を満たしたグラスや盃を交わしている間に、飲み友達の輪郭が柔らかく潤み、話題が弾んでくる。飲み友達の歴史が深くなるほどに、異性感よりは、一緒にいるだけで愉しい身内意識が濃くなってくる。

おおむね飲み友達は数人のグループを形成しやすい。多すぎても少なすぎてもいけない。特定の集団の中で成立した暗黙の了解が、飲み友達のよいところである。どんなに好感を抱き合った異性の飲み友達でも、「私はほろ酔い、あなたのおそば」の域を越えない。越えたときは飲み友達ではなく、セックスフレンドとなってしまう。

月光を砕く琥珀(こはく)のグラス、そんな光景は想像するだけで、実際の飲み友達が月を見るのは解散するときだけであろう。ほろ酔い気分のまま別れる彼らは、次に会う約束をしない。飲みたくなれば、まただれからともなく誘い合って集まる。粋な友情であるが、貴重な機会を逃がしたような気もする。

それに対して、月光をもろに浴びた男女の出会いは危ない。飲み友達が酒の勢いでその域を越えることは少ないが、月光を共有した男女は一線を容易に越えやすい。これを月光の恩恵とみるか、あるいは月毒に当たったとみるか、それぞれの価値判断である。

初出:2010年10月梅家族(梅研究会)