第672週 写文俳句3月その1

どんな夢孕む莟や天を突き

月に花言葉のように月言葉があるとすれば、一月は希望、二月は予感、三月は期待の月であろう。春愁といわれる愁(うれ)いは、再生の四月にならないと本格的にならない。三月、何に期待するかといえば、あらゆる可能性に対する期待である。

二月の梅を前駆に、次々に開く春の花々も、三月になると日毎に莟(つぼみ)を膨らませていく。まだ見通しのよい林間にも春が芽吹き始めている。花に疎い者には、莟を見ただけではどんな花が開くかわからない。だが、莟が内包する花の幻影は実物以上に華麗であり、林間に弾む陽の光と共に、まだ見ぬ花形や樹影を想像させる。

莟のまま野鳥に食われてしまう確率もかなり高い。ようやく花を開き始めても、一夜の春の嵐に無惨にも散らされてしまう危険性も高い。莟が孕む無限の可能性は、同時に多くの危険にさらされているのである。

初出:2010年3月梅家族(梅研究会)