第627週 写文俳句4月その4

花戦(いくさ)散るも残るも今日限り

その年の桜は開花前、寒い日がつづいたせいか、特に見事であった。艶やかな花弁が幾重にも重なり合い、朝陽を浴びて立ち上がる姿や、降り積もる夕闇の底から、自ら発光するかのごとく浮き立つ姿は、息を呑むほどに艶麗であった。それは宮田氏の生命をもって購ったかのように、この世のものならぬ艶やかな樹形を誇っていた。

毎年花の季節、降りかかる花びらに包まれたとき、ありし日の彼女の声を聞いたような幻覚をおぼえる。そんなとき、私は決して、散る花の行方を追わない。追えば、彼女を困らせるような気がした。

宮田美乃里氏は死を願うことによって、その存在を証明した。桜は自ら散ることによって一年に一度、その存在を主張する。

——(前略)春は今
いたずらまっさかり
だけどちゃんと引き際を知っていて
しまいには
桜の花びらを思いきり散らし
自分で春を消していく——(森村冬子)

初出:2008年4月梅家族(梅研究会)