第548週~写文俳句

紫陽花の宿りし傘や雨の色

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雨が好きである。どんよりとむらなく曇った空から降りみ降らずみの小糠(こぬか)雨が垂直に落ちてくる。地平線が霞み、街角や家並みが柔らかく烟(けむ)り、通りを行く人々の表情まで優しく穏やかに見える。こんな雨は年に数回しか降らない。

私は、そんな雨の中に面積の大きな傘をさして雨見(あめみ)に出かける。雨に濡れた紫陽花が本領を発揮して艶(つや)やかに色を変える。同じ傘を美しい異性と分け合っているかのようにふと錯覚するのは、そんなときである。たとえ幻影であっても、私は紫陽花の精が私の傘の下に束の間宿ったようにおもう。紫陽花の雨宿り。だからこそ紫陽花は傘の色の反映を受けて七変化するのではないだろうか。

初出:2007年6月ほんとうの時代(PHP研究所)