第611週 写文俳句12月その3

たがいに見知らぬ星の住人が、東京という宇宙空港で、人生の区切り点の一つである大晦日に出会った。私はその貴重な出会いを無にしてしまったのかもしれない。敵性の大都会で人間不信の用心が、人々をますます寂しく、孤独にさせている。大晦日がめぐりくる都度、六本木の街で私に声をかけてくれた女性をおもいだす。清楚で寂しげな翳を含んでいる女性であったが、仮にいま、どこかで再会したとしても見分けられないであろう。

押し詰まるにつれて、人は感傷的になっていく。過ぎ来し方を振り返り、新しい年に自分を託すが、年末、人の意識は過ぎ去った時間の方角を向いている。地方や中小都市の人たちよりも、都会に蝟集している人間のほうがサバイバルレースが厳しいのであろう。過去が美化されたり、忘却のかなたに霞むまで、今年一年では時間が不足している。不足している時間の中に、一年の未練や悔いが込められているのである。

長き夜や失いしもの数えつつ

初出:2009年12月梅家族(梅研究会)