第651週 写文俳句10月その1

月影と一体となれ片想い

殺意を燃やしているように見えた真夏の太陽が次第に透明化して天が高くなってくると、不意に蝉時雨に変わって、虫のすだきが全盛期に入る。月光が清(さ)やかに蒼(あお)く、人工光に馴れた身が、ふと灯りを消して月明の蒼さに驚く。太陽の光に殺意があるように、月光に毒があることは既述したが、恩恵があることはまだ述べていない。

月光は恋を育む。明るい太陽の下よりも、蒼い月光に染まりながら出会った男女は恋に陥りやすい。蒼い月光を浴びてたたずむ特に女性は、ミステリアスな陰翳を刻んで美化されて見える。花火大会や祭りの夜に出会ってから昼間デートして、がっかりすることも多い。

月光の中で初めて出会った男女は、慎重になったほうがよい。特に月光が最も蒼くなる秋の夜は、清らかな中に艶がある。一人で歩くのがもったいなくなり、異性であればだれでもよいような月下のパートナーを求めたくなる。

初出:2010年10月梅家族(梅研究会)