第678週 写文俳句4月その1

それぞれの春日に立ちて独り街

すべての莟が悉く開花する四月は、万物揃い踏みの季節でもある。春たけなわになるにつれて、春愁が深まる。万物よみがえり、溌剌たる生気が都会や地方、山野を問わず弾み立つ時期、なにゆえの愁いなのか。

年度はおおむね三月をもって切り換わり、四月から新しい年度となる。卒業式や人事異動による別離は、おおむね三月をもって終わり、四月は出会いの月となる。常々親しんだ人たちと異なり、新たな出会いは常に不安を伴う。異動と共に環境も異なり、時空共に未知の世界に入っていく人たちも多い。

四月は期待の月であると同時に、未知の出会いや環境に対する不安と警戒の月でもある。未知の者は敵性とみなす自衛本能が働く。新たな人間関係や未知なる環境に順応できないストレスが、春愁となって五月病の素地ともなる。

だが、春の愁いは、ストレスよりは多彩な花に彩られる艶麗な春について行けない気後れから意気消沈してしまう。一種の位負けである。どんな平凡な街角、単調な風景であっても、色とりどりの花に飾られた春は、陽が昏れた後も花の香りが漂い、月影が霞んでいる。

なにか自分の人生を決定づけるようなことが起きそうな予感に満ちた環境にありながら、結局、なにも起きない季節の移り変わりの中に、人は春の愁いを深くしていく。世間には、愉しげで幸せそうな人々がそれぞれの春を愉しんでいるように見える中で、自分一人が疎外されているような孤独感に陥る。

初出:2010年4月梅家族(梅研究会)