第694週 写真俳句歳時記

炎天下心のありか問う日なり

八月は夏の後半期である。祖霊を迎える盆を過ぎると、空がめっきりと高くなる。梅雨が残る七月に比べて、八月は連日、真夏日がつづき、夜は寝苦しい。毎日が激しく燃焼しているようであるが、燃え尽きていく夏の体質を、日増しに高くなっていく空が予言しているようだ。

見知らぬ異性と踊り明かした盆踊りの輪が八方に散って行くとき、恋の終わりを予感する。行きずりの恋は無責任であるだけに、美しい幻影のようである。盆踊りで知り合った見知らぬ異性と肩を並べて眺めた遠い花火、名も住所も告げずに別れた異性が、いつまでも瞼の裏に刻まれていて、人生で大きな機会を逸したような気がする。だが、そんな行きずりの想い出こそ夏の特権であり、夏の本質でもある。

そんな想い出をもたない人は、夢想するだけでもよい。地平線や水平線に林立する雲の峰が茜色に染まる夏の夕暮れどき、自分のために生まれてきたただ一人の異性が、未練げにたゆたう残照の奥に隠れているような気がふとするのも夏である。一瞬一瞬が過去のページに織り込まれていく中で、特別なページとして心に貼りつけたような記憶は夏に多い。

初出:富士通写真俳句歳時記2010年8月