第6週

雨の底香る花あり闇重し


虹立つやはかなき恋を予言せり


行き尽きて午後の日差しの迷い花


出会う都度恋を失ふ夏の旅


凛として花咲く下に人のあり


雨を聞く独りの夜の迷い蝉


闇ありて星輝けり夜半の春


友去りて動かぬ空の鱗雲


─故角川照子氏に捧げて─

死ぬときは独りの母に蝉時雨


灯を消せば月明青く虫すだく


名月や不眠の窓を照らすなり


メール読む深夜病棟虫時雨


秋霖に打たれ強さや花すすき


犬端(いぬばた)の会議姦(かしま)し春の朝


人生の味それぞれに蕎麦の客


─故宮田美乃里氏四十九日にて─

五月雨に四十九日もうるむべし


屍櫃(かろうと)の骨確めし茱萸(ぐみ)踏みて


梅雨の音長しとおもう深さかな


虫時雨君にだけ降る胸の闇


蝉時雨絶えたる後の百日紅

散りつつ咲くは命のほむら


十六夜の月光蒼く君を染め


花あれば花それぞれの物語り

散るも残るも花なればこそ