第559週~写文俳句

いたわりの街風青し共に老い

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坂の多い町に老婦人を見かける。手を取り合い人生を歩いて来た老夫婦が途中で立ち止まり、一休みした後、また寄り添って歩いて行く。なにげない光景であるが、微笑ましい。

共に老い、伴侶が健康であることは幸せである。ここまで来るには、さまざまな起伏や曲折があったことであろう。老いた夫婦が生きた街も、ずいぶんと様変わりして、老いてきている。旧い家が情け容赦なく取り壊され、高層ビルや異型のマンションが叢生(そうせい)しても、街は確実に老いている。

健げに生き残っている旧い家に出逢うと、昔の街角に帰ったような気がする。そんなとき、坂を駆け下る風がきらりと光り、老夫婦は二人が出会ったころをおもいだすであろう。

坂のある街は老人には辛いが、二人手を取り合って生きた人生を決して忘れない。

初出:2009年5月ほんとうの時代(PHP研究所)