第561週~写文俳句

連れ舞うて名乗らぬままに夏祭り

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夏は祭りの季節である。祭りには踊りはつきものである。一年のこの祭りのために燃え尽きる。

人生の重荷を一時下ろして、人は短い夜を踊り明かす。その踊りを見るために人が集まってくる。見ているうちに誘われて、踊りだす人もいる。

飛び散る汗、迸(ほとばし)る圧倒的なエネルギー、原始の野性を呼び覚ますような官能的な祭り囃子。そして夜空を染める花火が錦上、絢爛たる花を添える。

夏は恋の季節である。祭りに誘われて出会ったカップルは恋に堕ちやすい。一夜明ければ覚める恋を承知しながら、一夜限りの儚い命を燃やす。

夏の夜には、他の季節には決してない美しく危険な幻影がある。その危険性には禁断の甘い味が仕掛けられている。

夏祭りは燃焼そのものである。体温の低い者も祭りにもまれて踊り、歌い、連れ舞うている間に他人の体温を移されて熱くなってくる。祭りの禁断の味を知った者は、孤独の檻に決して戻れない。夏祭りの踊りは、一夜限りのまぼろしを追っている。

燃え尽きるまでの炎(フラマ)は花の意思

初出:2009年7月ほんとうの時代(PHP研究所)