第562週~写文俳句

朝顔に遅れて起きる古き町

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歴史が堆(つ)み傘なる古い町並みを歩くのが好きである。それも有名な史蹟や由緒ある古社寺よりも、ごく平凡な古い町が好きだ。

権力者や歴史上の人物よりも、無名の庶民の人生が築き上げた路地や町、そんな街角にこそ、多彩な人現群像の溜め息が聞こえてくる。

人生の無数の破片が、堆く積まれているのもそんな街角である。朝靄の屯(たむろ)する古い街角に朝顔がひっそりと咲いている。町の住人たちは、まだ起き出してこない。歴史の古い町の住人ほど、朝寝坊が似合う。

観光コースからもはずれた古い町は、先祖累代の営み(ライフパターン)を忠実に踏襲して頑固に朝寝しているように見える。あくせく走りまわっても、所詮、悠久の時間に呑み込まれてしまう。

時間はだれにとっても同じ様に流れていくはずでありながら、古い町ほどゆったりと流れる。それはそこの住人たちが、歴史の流れに身を任せているからであろう。

歴上の人物は、いずれも生き急いだが、庶民は決して急がない。彼らこそ悠久の旅人なのである。

 

 

初出:2009年8月ほんとうの時代(PHP研究所)