第563週~写文俳句

すすき立つ灯台守の映画見て

B-0036

ある雑誌の企画で寝台列車「カシオペア」に乗って北海道へ行く機会に恵まれた。以前は夜行列車、さらにその前は夜汽車と呼んだ。

今の寝台列車の乗客は観光客が主体であるが、昔の夜汽車の乗客にはよんどころない事情や悲しい旅が多かった。そして夜汽車は旅情よりは、人生の哀愁を運んでいた。

寝台列車は南行きより北行きが似合うのも、その積み荷ともいうべき哀愁の匂いが北国の方角に濃厚に煮つまっているように感じられるからであろう。

北へ帰る旅人は孤独であり、寡黙であるという定説が、詩や歌謡曲の影響もあっていつの間にかできあがってる。

終着の札幌から小樽まで足を伸ばした。映画のロケ地になった岬の灯台は、いまは無人らしく、すすきのかなたに海と向い合っていた。

小樽名物の裕次郎記念館も今日(こんにち)は以前ほどの賑わいもなく、移り気な観光客の流れが変わったように見える。

数年前に立ち寄った「霧笛の余韻」というロマンチックな店名のレストランは、地元の人に聞いてもだれも知らないという。あれは私が見た幻影であったのか。

私はカシオペアという宇宙船に乗って別の惑星に行ったような気がしてきた。

初出:2009年9月ほんとうの時代(PHP研究所)