第564週~写文俳句

今日もまた未練の色や秋の暮れ

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十月、天はますます高く、空気が澄んでくる。

澄んだ空から、なんのスクりーンもなく射込まれてくる秋の陽射しは、時に残暑をおもわせるほどである。

だが、風のない穏やかな日、空に張りついて動かないような一面の鱗雲に秋の到来を知る。

あたかも魚鱗が輝くような無数の鱗雲は、空に心が寄りあつまっているようにも見える。

人間の心の反映が鱗雲であれば、人の世はきっと穏やかで、住みやすいにちがいない。

そんな鱗雲は長つづきせず、十月に入っても台風が襲うこともある。

秋の暴風雨は野分と呼び、台風ようりやや弱そうであるが、油断ならない。

日毎に陽が短くなり、夕焼けが濃く、赤く煮つまっていく。

それはあたかもその日の仕事を果たし終えず。未練の凝縮のようにも見える。

初出:2009年10月ほんとうの時代(PHP研究所)