第582週 写文俳句6月その1

梅雨見(あまみ)船見る人もあり土手の傘

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連日五月晴れがつづいた空がようやく翳(かげ)ると、梅雨前線が北上して、日本列島は雨季に入る。長雨とか、淫雨などと呼んで、その陰鬱な趣きを好まぬ人も多い。

だが、私はこの日本の雨期が好きである。梅雨(つゆ)や、六月なのに五月雨(さみだれ)などと音感も好きだが、長い夏の暑熱に備えて、たっぷりと水分を補給してくれる梅雨期は、ものみなの輪郭が柔らかくなり、人や街や野山の表情が穏やかに見える。

江戸期は隅田川に雨見船が出たそうである。上流から仕立てた屋形船に綺麗どころを侍らせた粋人が、美女の酌でゆっくりと盃を口に運びながら、雨に烟(けむ)る両岸の風景を賞(め)で下って来る。この雨見船を見ようとして、川沿いの料亭や土手に雨見客が顔や傘を並べる。想像するだに粋な光景である。

次週に続く

初出:2010年6月梅家族代(梅研究会)