第583週 写文俳句6月その2

梅雨空(つゆぞら)は濁っているが、よく見ると深みがあって趣きがある。どんよりと曇った空の上方は薄明るく、地平線は靄(もや)っている。空にむらがなく、風のない上方から細かい雨が垂直に落ちてくる。こんな日は花見ならぬ雨見に適している。私は面積の大きな傘をさして雨見に出かけて行く。傘を傾けてすれちがう人々の顔が優しく、女性がみな美しく見える。特に朱色の傘をさした若い女性は面が薄赤く染まって、雨に酔ったように見える。

こんな日はコーヒーが特にうまい。雨を見ながら通りすすがりの街角に見つけた洒落た喫茶店(カフェ)にふと立ち寄って、窓際の席で苦いコーヒーを喫する。店内にはどこからか花の香りが漂い、待ちぼうけを食わされたらしい客が、ぼんやりと窓の外の雨を見ている。(次週に続く)

いずこより花の香りや待ちぼうけ
時雨聞く人生ありて薄明かり

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初出:2010年6月梅家族代(梅研究会)