第587週 写文俳句7月その3

人間は生きている間に多数の出会いをし、多くの体験を積み重ねる。その中で、夏は出会いと体験が最も多いようである。その理由は、夏というこの季節特有の解放感に加えて、日本独特の高湿の暑熱が人を家の中から外へ、涼しい山間や水辺へ、日中から夜間へと追い出すからである。つまり、家の中に閉じこもっている時間よりも、外にいる時間のほうが多くなる。夏の生活時間の配分は冷房の普及によってかなり変わってきてはいるが、狭い屋内よりも外へ出たいという心理傾向には変わりがない。

こうして夏、出会った男女の間に恋が発生する。夏の恋は長つづきしないといわれるが、それは夏の脆さとも関連しているようである。二十代から三十代にかけて、私はしきりに山に登った。当時は北アルプスの全盛期で、戦時下、戦場や勤労動員されていた若者たちが一斉に山に戻って来た。当時、山は若者たちの天下であった。当時の若者が今日、シルバーエイジとなって山に戻ってきているわけではない。(次週に続く)

置き忘る夏の行方や乳母車

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初出:2011年7月梅家族代(梅研究会)