第617週 写文俳句2月その2

このような世相で最も人が傾斜しやすいのは、他力本願の宗教であるが、その神仏ですら信教のちがいによって対立し、テロの源になっている。宗教が説く来世の幸せは、だれも来世に行って帰って来た者がいないのであるから証明のしようがない。

だが、季節は必ずめぐってくる。葉末に光る風、林床に開く小さな花弁、梅の香りに誘われたかのように、ふと沈丁花の芳香が鼻孔をかすめると、不安材料ばかりで閉塞していた時代が少しずつ開いていくような予感が走る。教祖の説くこの世の終末論や、来世の幸福ではなく、確実に約束されている季節の光がある。

梅の香に惹(ひ)かれて迷う路地のあり

視野はまだ冬そのものであり、自然は枯れている。乱開発の中に風前の灯火のようなみすぼらしい雑木林はまだ裸で、見通しがよい。

だが、春の予感はたしかに息づき、日増しに強くなっている。どんな無神論者でも四季の回りは信ずる。二月は予感の季節である。

——突然
胸がキューンとなって
とてつもない切なさが走る
そんな心の穴を
ちょっと前までは
お母さんが埋められた
だけどいまは
お母さんでもお父さんでも妹でも埋められない
唯一埋めることができるのは
はじまりをくれる自分の春——|森村冬子

初出:2008年2月梅家族(梅研究会)