第629週 写文俳句5月その1

魂の香煙燻(くゆ)る五月晴

五月は季節の青春である。一年のうちで最もエネルギッシュであり、生命力が弾む季節である。どんな平凡な街角にも光が弾み、新緑に彩られた樹間を青い風が吹き抜けていく。

引き際を知りて自ら花散らし
春を消し去る春風の粋

花の盟主である桜の花は散っても、それにかわる木蓮や椿が生き残り、桃や杏や辛夷(こぶし)や牡丹が、丘や野原を彩る。少し奥へ入れば山桜が、だれ見る人のいない空間に豪勢な花弁を散らしている。花水木がそろそろ街並木や遊歩道に加わってくる。五月を彩る花はおおむね花季が長く、花色濃厚である。
女性が冬の厚い武装を剥ぎ取り、一日ごとに本来の美しさを取り戻していく。男の目から見ると、女性の美の前提は薄い衣服にある。

遠方への旅情を誘われるのもこの季節である。四月は往々にして冬将軍が盛り返し、北の方ではまだ残雪に閉じ込められ、油断ができないが、五月はほぼ等しく夏に近づいている。

初出:2008年5月梅家族(梅研究会)