第632週 写文俳句5月その4

幾星霜耐える樹形や主替わる

私はどのようにして五月病を克服したのかよくおぼえていないが、医者にも行かず、「習うよりも慣れろ」という形で五月病に慣れていったのかもしれない。

だが、現実の波にもまれている間に、私は次第に学生時代の尻尾を切り離していった。おもえば、ホテルの仕事は一日単位に変わる。同じように見えても接遇する客は別の人である。ホテルは年齢、職業、性別、国籍、人種、宗教、目的、信条等が異なるあらゆる人々が集まる人間万博である。この人間万博に接する仕事が、私は次第に面白くなってきた。気がついたときは五月病が治っていた。五月病は「治すより慣れろ」が特効薬のようである。

五月があまりにも溌剌としているために、その季節に最もふさわしい若者たちがかえって同調できなくなってしまうのかもしれない。人生には辛いことが波のようにつづいて押し寄せてくるが、五月病は人生や社会の第一波といえよう。好むと好まざるとにかかわらず、人々はこの波を潜り抜けて遠方へと旅立って行く。

やがて五月の輝きを、我が命の輝きとして採り入れられるようになったとき、いっぱしの新人や社会人として次のステージに向かい合うことができる。五月は、そのような意味でフレッシュマンにとってはテストの一種のような月である。

初出:2008年5月梅家族(梅研究会)