第642週 写文俳句8月その1

夏雲を生みたる後に樹精立ち

七月を夏の前半期とすれば、八月はその後半期である。七月は夏が開幕したとはいえ、長梅雨が居すわったり、冷夏だったりして、不安定なことが多い。

七月下旬になってようやく待望の小笠原高気圧が張り出してきて、日本列島は夏真っ盛りとなる。朝から水銀柱がうなぎ登りに登り、真夏の太陽が日本列島をなんの遮蔽もなく焙(あぶ)り立てる。

七月中、地上に出るのが少し早すぎたのではないかと問うごとく、周囲を憚るように鳴いていた蝉が、いまや遠慮会釈もなく大合唱を繰り広げる。昼間だけでは飽き足りず、夜中まで鳴き通すこともある。

海も山も全開である。甲子園では全国から選び出された球児たちが、勝ち残りをかけて青春の火花を散らす。学童や学生たちだけではなく、旧暦七月十五日、祖霊を迎える盆は、新暦八月十五日にほぼ定着して、これを口実に全国軒並みに夏休みを取る。南方洋上から台風が次々に攻め上ってくるが、夏休みの全国総移動を食い止められない。

お盆が過ぎれば、日毎に空が高くなるが、まだ夏の威勢には少しも衰えが見られない。日中の暑熱が夜までも支配し、熱帯夜の底で寝苦しいのをよいことに、ナイトライフと称して夜更かしをする。ナイトライフは夏、特に後半期の八月に全盛となる。

初出:2008年8月梅家族(梅研究会)