第686週 写文俳句6月その2

梅雨におう君の香りを運びたり

六月に結婚する女性をジューンブライドと呼ぶが、他の月の花嫁よりも特別扱いを受けているのである。新緑の残る中に、六月の雨に烟る花嫁、まさに一幅の絵のようである。だが、ジューンブライドは日本で発明された言葉ではない。ジューンブライドは奇しくも日本の季節によく合う。

「雨が降っていた」という小説の書き出しとむすびは多い。「雨が降っていた」の書き出しは、今後の展開に情緒的な広いスペースをもたせる。また同じむすびは余韻を引く。見知らぬ駅に下り立ったとき雨が降っていて、駅前に車もなく、足を踏み出し兼ねているとき、背後から傘を差しかけられてロマンスが始まる。そんなときの雨は豪雨やスコールや氷雨は合わない。

ロマンスの発端は六月の雨に限る。和服の女性が六月の霧雨の中を蛇の目傘を傾けて行く姿などは、そのまま絵となる。だが、そんな光景は今日ほとんど失われてしまった。六月と雨はセットになっていて、雨が六月の文化を育んだといってもよいであろう。

初出:2010年6月梅家族(梅研究会)