第551週~写文俳句

月追えば心を照らす星明かり

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月光には一種の毒があるような気がする。特に秋の月影盛んな夜、その蒼い光に染まって月を追いながら歩いていると、月毒に心の芯から冒されるようである。月は絶えず移動するが、星は固定しているように見える。気がつくと、月は自分を置き去りにして沈み、星の海が蒼然と自分を取り巻いている。

そんなとき住み馴れたはずの町が、別世界のようである。事実、月に惹かれてさまよい歩いている問に、我が町でありながら、道に迷ったことがある。かぐや姫の伝説のように月光は異界への道を染める照明かもしれない。

月光は現実に疲れたとき浴びると危ない。新たな伝説を探して月影を追うとき、ふと自分が伝説の世界にいるような錯覚をする。美しい錯覚は危険である。月光には毒がある。

初出:2007年9月ほんとうの時代(PHP研究所)