第553週~写文俳句

歳月を埋める酒や掘炬燵

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掘炬燵(ほりごたつ)を囲んで久闊を叙する。熱燗で注(さ)しつ注されつしている問に身体に程よくアルコールがまわって陶然としてくる。そんなとき、おたがいを隔てていた長い年月が埋め立てられ、別離の日が昨日のことのようにおもいだされる。

時間は久しぶりに会った二入の環境や身分を変えていても、掘炬燵の酒は、彼らの問がなにも変わらなかったかのように昔のままにリセットしてしまう。

これがビアホールのビールや、祭り酒や、納涼花火大会などではこうはいかないであろう。掘炬燵には一種の魔法がある。理想的なのは二人差し向かい、精々四人まで。あまり騒がしくなく、しんみりと飲めるような環境がいい。酒が飲めなくてもよい。人と時間と環境がまろやかに溶け合い、一時の錯覚に心身を委ねて過去(タイム)へ漂流(ドリフト)するのである。

初出:2007年11月ほんとうの時代(PHP研究所)