第554週~写文俳句

暮れてなお枯木も咲けり光り花

6188

年の瀬が近づいてくるにつれて人々の溜息が濃くなってくるような気がする。特に大きな都会の街角には人生の溜息が煮つまっていくようである。

若いころにはそんな溜息は聞こえない。その溜息の中にはもちろん自分のものも混じっている。よくも悪くも今年も押しつまったなあと来(こ)し方(かた)を振り返るとき、自分もいつの間にか溜息をついている。

師走に入ると街を行く人々の足どりが早くなる。特に急な用事があるわけでもないのに、足早に歩いている。時間と、というより、毎年押しつまる人生と競争しているようである。

人生の各区切り点が年末であるとすれば、濃縮された溜息も初日の出と共にリセットされる。だが私はリセット前の街の表情が好きである。リセットされてみな等しく計数目盛(カウンター)ゼロになるよりも、入それぞれに異なる多彩な人生模様が街のイルミネーションに象徴されている年末の方が断然面白い。

初出:2007年12月ほんとうの時代(PHP研究所)