第556週~写文俳句

竹林に葉擦れも絶えて雪止まず

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雪国ではない地域の雪は稀少価値がある。

稀な大雪に交通機関はストップし、転んで怪我をしたりする人が続出するが、街は一面の雪化粧を施されて一変する。

日頃見なれた平凡な町角が、別世界となって立ち上がる。

雪晴れの朝、蒼すぎて暗く見える空を背負ってそれ自体から発光するかのように輝く銀色の街並は、神々しいまでに清らかに艶やかである。

雪は都会の汚濁と騒音をすべて覆い尽し、吸収してしまう。大雪になりそうな脅威を孕みつつ、しんしんと垂直に降りつづける雪は、人肌を恋しくさせる。

灯がうるみ、路上を柔らかく染めて街の表情を穏やかにする。どんなに心が荒廃していても、風を伴わない雪のなせる錯覚には情緒と感傷がある。

そんなときは竹林の葉擦れも聞こえず、忘れていた異性のおもかげや、もっと大切にしなければならない人をおもいだすのである。

初出:2009年2月ほんとうの時代(PHP研究所)