第557週~写文俳句

通い猫恋の順位に餌を待ち

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春は恋の季節である人間だけではなく、動物も恋をし、子孫を繁殖する。

長い冬に耐えた植物も、一斉に蕾が膨らみ、開花する。万物、生命力にあふれ、春光がエネルギッシュに弾む家の近くでは、特に猫が恋に日覚めて恋人(恋猫)の許に通うようになる。発情した猫が恋猫を求めて鳴く声は、切ない。

春寒の日夜、家の庭を数匹の猫が横切る、顔なじみの野良もいれば、恋を探してさすらっているらしい遠方の飼い猫もいるそんな猫に餌をやると、たいてい飼い猫が先に食い、余ったものを野良が食べる。

飼い猫が食べている間、野良はおとなしく待っている。恋の順位が、食の順位にも現われているのかもしれない。

通い猫にめぐりきた春を知り、恋猫の鳴き声に春愁(しゅんしゅう)をおぼえる。

春は懶(ものう)く、理由もなく切ない。月影が霞む夜など、恋を恋する。

哀切な猫の鳴き声に、すでにおもかげも定かでない初恋の人を想いだすのも、この季節である。

月影に鳴く猫もあり遠き恋

初出:2009年3月ほんとうの時代(PHP研究所)